療育手帳の全国統一が始まる?知的障害のある方と家族が知っておきたいこと
療育手帳とは?制度の基本を整理
療育手帳の目的と役割
療育手帳は、知的障害のある方の生活を支えるための証明書として機能しています。
この手帳を持つことで、福祉サービスの利用、交通機関の割引、税制優遇など、さまざまな支援が受けられるようになります。
法的根拠はないものの、自治体が独自に運用しているため、福祉施策における重要な役割を担っています。
対象となる知的障害児・者
対象は、知的障害があると判定された児童や成人です。
ただし判定基準は自治体ごとに異なり、発達障害のみでは対象外となる場合もあります。
そのため「どこで判定を受けるか」によって結果が変わるケースがあるのが現状です。
他の障害者手帳との違い
障害者手帳には大きく3種類あります。
・身体障害者手帳
・精神障害者保健福祉手帳
・療育手帳
療育手帳は知的障害に特化しており、身体や精神の障害とは別に認定される仕組みになっています。
自治体ごとの運用差が生じる背景
療育手帳は法律に基づく制度ではなく、あくまで行政の「施策」として運用されています。
そのため名称や判定区分、更新期間にばらつきがあり、住む地域によって利用できるサービスに違いが出てしまうのです。
現行制度の課題
判定区分や認定基準のバラつき
全国の自治体で判定区分は2〜7段階と幅広く設定されており、統一されていません。
「中度」「軽度」といった表現も自治体によって異なるため、同じ知的障害でも異なる判定が下されることがあります。
IQ上限値・更新期間の違い
療育手帳の判定に使われるIQの基準は自治体によって異なります。
ある地域ではIQ70未満で取得可能ですが、別の地域では65未満とされることもあります。
また、更新期間も2年・4年・無期限など、地域差が大きいのが現状です。
引っ越しで判定が変わる問題
現場でもよくある相談が「引っ越したら手帳が更新できなかった」というケースです。
自治体ごとの基準が違うため、判定が変わりサービスが受けられなくなる不利益が実際に生じています。
法的根拠がないことによる不安定さ
療育手帳は障害者総合支援法や障害者基本法に明記されていません。
あくまで行政の裁量で運用されているため、制度の安定性に不安が残ることが指摘されています。
全国統一に向けた厚労省の取り組み
社会保障審議会での議論経過
2022年の社会保障審議会障害者部会では、療育手帳の全国統一化を目指す方向性が示されました。
その後、厚労省は検討会を設け、当事者や関係団体の意見を反映しながら議論を進めています。
判定ガイドラインと「ABIT-CV」の開発
統一化の基盤として判定ガイドラインが策定されました。
さらに「ABIT-CV」という新しい検査ツールが開発され、知的機能127問・適応行動220項目で評価を行います。
ICD-11に準拠した国際的基準との整合性
この「ABIT-CV」は世界保健機関(WHO)のICD-11基準に準拠しています。
国際的な障害の定義に沿った形で、国内でも一貫性のある判定が可能になる見通しです。
2026年度からのモデル自治体での試行予定
2026年度からは全国の一部自治体でモデル試行が行われます。
この試行の結果をもとに、全国統一へと段階的に移行していく方針です。
統一化で期待されるメリット
全国どこでも同じ基準で手帳取得が可能に
統一化が実現すれば、住む場所によって判定が変わる不公平は解消されます。
これにより、知的障害のある方とその家族が安心して生活基盤を築けるようになります。
サービス利用の公平性向上
判定基準が統一されれば、どの地域に住んでいても同じ支援を受けられる環境が整います。
これは障害福祉の平等性を高める大きな一歩となります。
行政手続きの効率化
自治体ごとに異なる基準がなくなることで、事務処理の効率化が進みます。
また、支援者側も共通の判定基準をもとに相談支援を行えるため、支援の質が向上すると期待されています。
家族や支援者の安心感につながる
「引っ越したらサービスがなくなるかもしれない」という不安がなくなることで、安心してライフプランを考えられるようになります。
統一化に向けた今後の課題
「知的障害の定義」をどう扱うか
統一化はすなわち「知的障害とは何か」を定義する作業でもあります。
そのため法的に明確化する必要性が議論されています。
判定基準の統一がもたらす影響(厳格化の懸念)
一方で「基準が厳しくなり、これまで手帳を持てた人が対象外になるのでは」との懸念もあります。
サービス利用の範囲が狭まるリスクをどう防ぐかが課題です。
法制化の必要性と議論の行方
療育手帳を障害者福祉法に位置付けるかどうか、今後の重要な論点となります。
法制化によって安定的な運用が期待されますが、慎重な議論が必要です。
当事者・家族の声をどう反映するか
制度は現場で使われてこそ意味を持ちます。
そのため家族や本人の声を取り入れる仕組みが不可欠です。
制度改正を見据えて知っておきたいこと
統一化がすぐに始まるわけではないこと
モデル試行は2026年度からであり、全国統一は数年先の話です。
焦らず、制度の進展を見守ることが大切です。
現在の手帳を持つ人への影響
今持っている療育手帳がすぐに無効になることはありません。
むしろ統一基準に合わせて、順次更新されていく形が想定されます。
家族や支援者が今から準備できること
今のうちに更新期間・判定基準を把握しておくことが重要です。
また、支援者と連携しながら将来の生活設計を考える準備をしておきましょう。
制度の動向を追いかける重要性
制度は流動的です。
定期的に厚労省や自治体の発表を確認し、最新情報を得る習慣が大切です。